猫のいる短篇!?
ご主人は文庫本を手に、釈然としない表情を浮かべている。
生涯を湘南にすごした阿部昭の「散文の基本」という本だ。
ご主人はこのところ、この本をパラパラとやって、気が向いた文章を拾い読みしているらしい。
その中に「猫のいる短篇」というのがあった。
ご主人はそれを読むと、近所の図書館にむかったのである。
阿部昭が引用していた短篇のうち、ふたつを図書館で読んできたらしい。
・梶井基次郎「愛撫」
・ヘミングウェイ「雨のなかの猫」
帰ってきて、もう一度阿部昭の文章を読み直し、それで釈然としない表情を浮かべるのだった・・・・
* *
梶井基次郎「愛撫」ではまず、猫の耳が問題になる。つまり、猫の耳ってのは、

こうなっている、

という話だ。
ところで、梶井はその耳を切符切りでパチンとやりたい強迫観念にかられるという。もちろん、そうはいかないから(切符切りも手元になかろうし)噛んでみたというのだ。で、強く噛めば噛むほど猫は痛がる、という結論である。
ご主人はグルを膝に抱き、彼の耳をいじくりまわしながら、ご夫人に問いかけるのだった。
保護猫の耳カットは、痛くないのだろうか?
ご夫人はこたえる。
ぜんぜん痛くないわよ。
* *
ヘミングウェイ「雨のなかの猫」もごくごく短い短篇である。
阿部昭はこれを絶賛するのだが、「最後の四五行がすばらしい」と。
ご主人は釈然としない。
筋書きをここに書く野暮は阿部にならってそうしないが、小粋な結末を受け入れない野暮を承知でこう思っているのだ、
猫を物のように扱うべきではない!
