ラグビーワールドカップ、プール戦が終わって顔ぶれだけみれば結果はおおむね予想通り。Australiaが残れなかったことを強いてあげてもいいかもしれないけれど、これはセレクションと前哨戦の結果をみれば大会まえから予想できたこと、ヘッドコーチのセレクションミスに他ならない(フランスの記事なんか眺めているとヘッドコーチのことをsélectionneurと書いてある。選ぶ人、ヘッドコーチの仕事はつまり、選ぶことなのだから、このヘッドコーチはその大事な仕事ができなかったことになる)。
予想通りだったとはいえ、だからといって、大会がつまらないというわけではない。ぼくはこの大会を充分に楽しんでいる。
ただ、こうして顔ぶれがそろってみると、Pool AとPool Bの上位2チームはいわば世界のベスト4チーム(世界ランキングといってもいいけれど、このランキングはナショナルチームの実力だけを反映しているわけではないだろう)なのだから、彼らを準々決勝で戦わせ、そのうち2チームを早々に排除してしまうなんて、いかにももったいない。Pool AとPool C、Pool BとPool Dのように組み合わせをし直してもらうと、ずっと魅力的な展開が期待できるではないか。France対Fijiなんて、きっといいゲームになったに違いない・・・・詮ないことだけれど。
Fiji !
ところで、プール戦を振り返ってみてもっとも劇的な戦いぶりだったのが、このFijiだ。80年頃に流行った言い方をすると、大会をかきまわすトリックスターの役回りを演じた、という印象。
というのも、まずは初戦のWales戦。
序盤に立て続けに二つトライを取ったものの、中盤は押され気味。このまま押し切られるかとおもった最後の10分でなんと、またぞろ立て続けのトライ二つ。さらにボールデッドになるまでの最後のワンプレーはWalesのゴール前、あと一つトライとってゴールを決めれば逆転なのだ。
そう、Fijiは大会前にはEnglandにも勝っているのだから、このままWalesも撃破しちゃうか!
・・・・というこの興奮は虚しかったろうか。というのも、結果を知った上で、JSportsの再配信で観戦しているのだから。
そんなことはない、ぼくは結果を知っていながらにして、じゅうぶんに楽しんだのだ。
そして、決定的だったあの最後のパスとそれにつづくノックオン!ミスしたウィンガーのあの表情!トリックスターと呼ぶにふさわしい、今年もっとも哀しかった表情として顕彰したいくらいだ!
そして、トリックスターの本領発揮は最後のPortugal戦。
もちろんこの大会、Portugalは善戦を続けていた。WalesにもAustraliaにも、少なくとも大敗することはなかった。だからまずはPortugalをほめるべきである。
しかしここは敢えて、Fijiの負けっぷりが見事だったと言いたい。トライを二つずつ取り合ったシーソーゲームを、終盤にペナルティ二つで突き放したかに見えたのは、まさにFiji対Wales戦の再現であった。ただしこの場合、Walesを追い立てるFijiに対応するのは、いままさにFijiを追い立てているPortugalなのだけれど!
これはまるで、Wales戦で果たせずに滞ったストレスを対戦相手のPortugalに憑依して果たさんとする代償行為のようにも、あるいは、神聖な祝祭に自らをささげるサクリファイスのようにも見えた!
わずか1点差での劇的な敗戦=神聖な祝祭へのサクリファイスは、勝ち点1を獲得してAustraliaと並び、その結果Australiaを抑えてプール戦を勝ち抜けることで成就されたわけだ。
そんなふうに、Fijiは魅力的だった。
Samoa !
しかし、プール戦を振り返ってみて、ベストゲームとベストチームをあげるとしたら、ぼくはオセアニアのもうひとつの島嶼国、Samoaをあげたい。
つまり、ベストゲームはSamoa対England、ベストチームがそのSamoaである。
昨季のスーパーラグビー、新規に2チームが組織された。ひとつはFijiを中心に組織されたFijian Drua、こちらは最終順位なら12チーム中7位という健闘であった。そしてもうひとつがMoana Pacifika、こちらはSamoaを中心に組織されたチームで、ぼくはこのチームに注目していた。といっても、とくに他から区別できる選手といえばかつてAustralia代表だったChristian Leali’ifanoくらいなのだから、注目といってもたかが知れているのけれど・・・・。ぼくがシビレタのは、ここに書かれているチーム結成の理念だったのだ。小さな島というのではない、大きな海とそのネットワークという理念に。そして、最終節でかれらがようやくWaratahsに勝利したのを、ぼくはよろこんだのだった。
ただし、ワールドカップに登場したSamoa代表チームのリストをながめてみると、Moana Pacifikaから選ばれたのはわずか10名にすぎず、このチームはかならずしもMoana Pacifikaを中心にセレクトされたとはいえないだろう。むしろ、FranceのTop14に所属する選手が多い。
ここで、このワールドカップを楽しむための、もうひとつのポイントを呼び出す必要がある。
このSamoa代表チームには、過去にAll Blacksのキャップをもつ選手が3名いる。じつは、今回のワールドカップのもうひとつの楽しみが、このような過去に強豪国のキャップを持つ選手たちの、いわばセカンドキャリア、かれらのルーツ国、とくにSamoa、Fiji、Tongaでの活躍なのだ。
そのうち特にぼくが注目していた選手が、Lima Sopoaga。
かれは2015年のスーパーラグビーで優勝したHighlandersのfly-halfだった。当時のHighlandersはヘッドコーチが現日本代表ヘッドコーチのJamie Joseph、Full Backにはいぶし銀のBen Smithがいて、今回Tonga代表でセカンドキャリアを選んだMalakai FekitoaがCenter、Scrum-halfにはもちろんAaron Smith、そしてバックアップするのがわれらがFumiaki Tanakaくんだった。ぼくはこのチームが好きだったのだ。SopoagaがAll Blacksによばれたとき、Aaron Smithがわがことのように嬉しそうな表情を浮かべ、ベンチでBlackジャージに身を包み、彼と並び立っている写真をみたことがあった。
そのSopoagaが今回のワールドカップでようやくフル出場となったのが、このEngland戦だったわけだ。初戦のChile戦では後半から登場しコンバージョンをひとつ決めたものの(14歳のころから使っているという、プレースキックの際にボールを固定するkicking teeを紛失するという事件があった)、それ以降の日本戦を含め2試合を欠場していたのはふくらはぎの故障だったのだそう(SopoagaがいるSamoa対日本ってのもみたかった)。
当のEngland戦では、序盤そうそうに一本とられたものの、ブラインドサイドを責めた見事なクイックハンドで一本とりかえすと(これは時間差を使ったトライで)、Sopoagaのオープンへのダイナミックなキックパスが決まって(こちらは空間差を使ったトライだ)立て続けのトライであった。終盤のスクラム脇に穴ができたのは残念だったけれど、最後のキックを蹴りだすOwen Farrellはホウホウの体ではなかったか!
まさに惜敗、England相手に1点を争うという、まれにみる好ゲームであった。なにより、Sopoagaが、サモアが輝いた、これをもってぼくは、プール戦を総括するベストゲームとしたい。
