やっぱりFranceが世界を・・・・France manoeuvre tout le monde ?

結果だけは毎週チェックするものの、昨年のワールドカップへの熱中ぶりはどこへやら、すっかり距離をおくようになってしまったのは、あたかも憑き物が落ちたかのような具合だけれど、もう金輪際さっぱり興味を失くしたというわけでは、当然、ない。

ワールドカップに熱中しすぎた反動といえばそれまでのことだけれど、おもうに、というか、おもいのほか、といおうか、この自身の態度にはどうやら、ワールドカップのその後の人事動向が効いているらしい。

人事動向のひとつは、もちろん日本のトップリーグの話で、ワールドカップ以前からそういう情報は知っていたけれど、じっさいに、All BlacksからAaron Smith、Ardie Savea、Beauden Barrett、Brodie Retallick、Dane Coles、Richie Mo’unga、Sam Cane(どこ行った?)、Shannon Frizellという顔ぶれが来日し、WallabiesならMarika Koroibete、Samu Kerevi、Bernard Foley、Will Genia、Quade Cooper、Israel Folau、SpringboksからはDamian de Allende、Kwagga Smith、Cheslin Kolbe、Pieter Steph Du Toit、Franco Mostert、Faf de Klerk(いつ戻るんだろう?)、Jesse Kriel(戻った)なんという・・・・こんな連中が一挙に日本にやってきたなんて、そんなハイパーリアルな状況を受け入れるのは容易ではなかった、というより、食べる前から食傷気味、むしろ、食べるのを忌避して拒食症という感じですらあったわけだ。

とはいえ、これは所詮ドメスティックリーグのこと、彼らの多くは今シーズン限りの契約だということだし・・・・

それ以上に効いたのは、むしろこっちの方、つまり、各国代表チームのスタープレイヤーたちの動向である(所詮、わたしのラグビー観戦なんてたかがしれたもので、彼らスタープレイヤーを中心に構造化されている、せいぜいそんな程度のものなのだ)。

ワールドカップで引退、あるいはキャリアに一区切り、というのは毎度のことではあるが、どうやら前回のワールドカップでも「ある世代」に区切りがついたらしいのだ。

All Blacksなら、Sam WhitelockやDane Colesが今季でラグビーを引退するというし、Brodie RetallickはAll Blacksのキャリアを終えるという。IrelandのスタープレイヤーJohnny Sextonはラグビーから引退したし、WalesのDan Biggarも代表はこれで最後だという。今年のSix nationsを欠場したOwen Farrellは来季からフランスTop14のRasing92に移籍し、それにともなってこの先2年間はEngland代表に選ばれることはないというから、彼の純白ジャージも先のワールドカップが見納めだったかもしれない。

ところで、前回のワールドカップで区切りをつけた「ある世代」というのは、どういう世代だったか?

思うに、「スーパー」のつくスタープレイヤーが不在だった世代、ではないか。つまり、Jonny WilkinsonやDan Carterのようなスーパースターが不在だった世代(ほんとうはここに、Brian O’driscollを加えたいけれど、ちょっと知名度が及ばないような気がする)。Sexton君も、Biggar君も、やめたわけではないけれどFarrell君も、Barrett君も、みなスタープレイヤーではあっても、「スーパー」ってわけではないだろう。そんな彼らの世代、「スーパー」不在の世代が、一区切りついた、とわたしには思えるのだ(注)。

という次第だから、ラグビーファンならば今年の6 Nationsは新しいスタープレイヤーの出現に期待しよう、「新世代」のヨーロッパラグビーを楽しもう、なんということになったかもしれない・・・・ラグビーファンならばそうかもしれないのだけれど、残念ながらわたしはそうはならなかった。

Sexton君、Biggar君はいなくなった、Farrell君は今年の6 Nationsは家族のためにお休み、諒としよう、ScotlandのFinn Russell君は個人的にあまり好きではない、それなら、あとの役者は・・・・

そう、Franceだ!

Franceは上記したような「ある世代」からは逃れているように見える。Franceだけ、世代交代のフェーズがEnglandやIreland、Walesから、New Zealandからも、ずれているのだ。たとえば2015年のワールドカップ、上に挙げたスタープレイヤーたちが上り調子だったころ、フランスからはスタープレイヤーが消えた時期だっただろう。そして2019年、すでにAaron Smithが絶頂期を越えたと思しきころ、逆にフランスにはいよいよ上り調子のdemi de mêléeが出現していたのだ。

そして、いまや彼は、同時代唯一の「スーパー」スタープレイヤーとなった!

Antoine Dupont!

2023年のフランスで開催されたワールドカップは、本来なら彼のための大会になるはずだった。その無念さがあってか、われらがAntoine Dupont君は今年のパリ・オリンピック、7人制ラグビー代表に召喚されたという。ワールドカップの無念をオリンピックではらそうという、まるで国家的な策略、いわば国策召喚だ!

で、6 nationsは?

すでに7人制のフランス代表チームに合流するからお休みなのだそう。しかも、彼の相棒といってもいいだろう、もうひとりのスタープレイヤーStade Toulousain、Romain Ntamack君はワールドカップ前の大怪我からまだ復帰していなかった・・・・

はい、わかりました。今年の6 nationsは忘れましょう・・・・(先述したとおり、わたしのラグビー観戦はスタープレイヤーを中心に構造化されている。したがって、スタープレイヤーが欠けると観戦モチベーションは一挙に崩壊してしまうのだった)。

Dupont君が不在というFranceの事情、これが決定的になって、しばらくラグビーのことは忘れていたのだった・・・・

* *

さて、ひさしぶりにラグビー情報をあたってみると・・・・

トップリーグもプレーオフ進出チームが出そろったようで、Aaron SmithとBeauden Barrettのいるトヨタは敗退が決まり、Ardie SaveaとBrodie Retallickのいる神戸製鋼も同じ憂き目をみることになった。トヨタには来季からAll Blacksの前ヘッドコーチだったIan Fosterがコーチ陣に加わるそうだから、これで前々ヘッドコーチのSteve Hansenとともに2015年のワールドカップを制したコーチ陣二人がトヨタに揃うことになった。それで・・・・どうなるだろう?

一方、Super Rugby Pacificも今シーズンはほとんどチェックしないうちに、いつのまにかRound11/15だそう。New Zealand勢はHurricanes、Bluesが1位、2位、ひとつ飛ばしてChiefsが4位、Highlandersは8位、そしてなんとCrusadersが10位というから、つまり下から3位という驚きの事態になっていた。まさか、ヘッドコーチが変わったからなんてことはあるまいに・・・・

そして、やっぱり注目すべきは、フランスということになる。

Dupont君のStade ToulousainにはNtamack君が復帰し、Top14では2位につけ、Champions Cupではプレーオフの準決勝まで進んでいるのだった。

そして上記したように、この夏、Dupont君はオリンピックに出場する。

ところが、彼はその7人制大会の合間をぬって(かどうかは知らないけれど)、Top14にもChampions Cupにも参加していた。彼のスケジュールが気になるところだけれど、6月初旬のマドリッドでの7人制大会に出場するというアナウンスを敢えてしたところから邪推すれば、5月初旬のChampions Cup決勝(これを書いている時点で、まだ準決勝前だけど)にも、6月下旬のTop14決勝(まだレギュラーフェイズ26ゲームのうち22ゲームが終わったところだけれど)にもToulousainとして出場できるのではないか・・・・!?

7人制ラグビーと(15人制)ラグビーとの二刀流ってことだ。

そして、オリンピック・・・・東京オリンピックのときにはこんなに迷惑なイベントはないと思っていたのに現金なもので、こんなにオリンピックが楽しみだというのは、誰も知ったこっちゃないわたしの個人史においても画期的なことである。

そしてそんな楽しみが降ってわいたのは、歴史を振り返ってみれば、まさに、7人制ラグビーがオリンピック競技として認められたからではないか・・・・

* *

オリンピックとラグビー、あるいは、ワールドカップとオリンピック、あるいは、フランスのラグビー、そんなことについて考えさせられたのは、新刊棚に並んでいたこの本を手にとったからでもあった。

・松島剛史「ラグビーの世界をデザインする──ワールドラグビーの歴史とその仕事」

著者は立命館の准教授さんだそうで、どうやら社会学の枠組みの中でスポーツ、とくにラグビーを研究対象にしているらしい。ラグビープレイヤーでもあったらしい。本書は彼の博士論文をベースに、他の論文などを併せて再構成したものだそう。

前半はInternational Rugby Board(IRB、国際ラグビー評議会と訳されている)が現在のWorld Rugbyへと発展した歴史を、とくにプロ化、ワールドカップ導入の経緯に力点をおいて論じ、後半はグローバル化するWorld Rugby事業のケーススタディとして2019年の日本でのワールドカップについて、その準備から結果(レガシー)までを論じている。第四章のマッチオフィシャル制度、最終章でレフリングにおけるTMOの異議が多角的に論じられ、さらに補論でスポーツの社会学的捉え方が紹介されているあたりに、この本の社会学的な意義(のヒント)がありそうなのだが、それを云々するのはもちろんわたしの手に余ることである。

わたしが気づかされたことといえば、技術的な面では例えば、IRBがSuper12に介入したこと(ブリッジングの禁止)について。Super12によるラグビーの刷新がリーグラグビーの影響であることはわたしにも想像できたことであったが、なるほど、それに対抗することからスクラムやモールラックの重要性が「(ユニオンラグビーの)伝統として」再確認されたという帰結は納得のいくことであった。

また、歴史的制度的な面では例えば、例のナショナルチームの選考基準がIRB(当時はIRFB)には20世紀初頭からあったということにも無知であった。考えてみれば、国際交流試合=テストマッチがあるかぎり、UKや英国連邦では、ハナッから当然おこる議論なわけだ。UKは地続きだし、連邦内で人はグルグル移動しているだろうから。大事な指摘は、これもまたダイバーシティのひとつだということ、そしてラグビーの特異性、ユニオンの伝統ということ。

しかし、わたしにとってなにより興味深かったのは、IRBとオリンピック、ひいてはフランスとの関係について論じられていることであった(フランスを重視するのは、この本の著者の意図とはまったく無関係であることは言うまでもない。たとえば、松島にとってラグビーとオリンピックとの関係は、ワールドカップにおける「レガシー」の重要性を論じるために必要な手続きに過ぎないのかもしれない)。

第1章でもIRBとフランスの組織Fédération internationale de rugby amateur(FIRA、国際アマチュアラグビー連合と訳されている。IRBがWorld Rugbyに名称を変更したときに、FIRAもRugby Europeに名称変更したらしい)の相剋が描かれているのだけれど、大事なのはむしろ第6章の冒頭で、ごく簡単にではあるものの、オリンピックに関連付けて改めて両者の関係が引き合いに出されているところである。

松島によると、ラグビーがオリンピック競技に採用されるにためには、まずIRBとFIRAの対立を解消してからにせよ、そんなお達しが国際オリンピック委員会から届いたのだそう。当時のフランスユニオンの会長はBernard Lapasset、

「このラパセがワールドラグビー会長になったときにようやく七人制ラグビーの採用が実現するのであり、そこに至るまでに国際オリンピック委員会に残っている「イギリス崇拝スポーツan Anglophilic sport」というラグビーのイメージの払拭に苦心したことをうかがわせる記録もある」

なるほど、オリンピックというのはそもそもフランス主導ではじまったものであり、フランス側の組織FIRAはIRBの英国連邦内閉鎖性に対抗するものでもあっただろうから、両者の対立が解消されIRBの主導権がフランス側に移れば、オリンピックへの採用は、あとは技術的な問題(つまり7人制の採用)でしかなかったということかもしれない。

この点、ほかのスポーツ、たとえば柔道の国際化におけるフランスの貢献なども仄聞するところ、フランスのスポーツに対する普遍的な政治的姿勢というのがみえてくるようである・・・・スポーツに限らないかもしれないけれど・・・・

* *

とまれ、オリンピックを提唱したフランスで開かれるオリンピック、フランスが主導したオリンピック競技である7人制ラグビー、そこに、フランス人であり、ラグビー界唯一の現役スーパースターDupont君が参加するわけだから、これは(誰も知ったこっちゃない)過去のわが身とわが言動を振り返るとはなはだ慙愧に耐えないことながら、このオリンピック、楽しまないわけにはいかないのだ!

(注)「スーパー」スターはいなかったにしろ、わたしはこのスタープレイヤーたちのラグビーを楽しんだ。2003年ころからヨーロッパのラグビーを見始めたわたしにとって、もっともお気に入りのスタープレイヤーはWilkinsonではなくてO’driscollだった。FranceならMichalakよりJean-Baptiste Élissaldeだった。2010年代にはO’Garaより、台頭しはじめた若きSextonに注目したし、Dan CarterよりもAaron CrudenやBarrettに目がいった(まだ幼さの残る彼には真っ白なバレータイツが似合いそうだった。わたしは彼を「星の王子様」と呼んでいた)。Wilkinsonのショットルーチンを誰もが真似した世代というのがあったが、Farrell君はもうそういう世代から自由であった。わたしがもっとも気に入ったショットルーチンは、Biggar君のショットルーチンであった・・・・