イライラするのは、電気屋で家電を検討していると横から寄ってきて、こちらはなにも尋ねていないのにいきなりなにか説明しはじめる店員だ。
イライラする・・・・とはいえ落ち着いて、まずは留保しよう、結果的にそれがよかったこともあるから。
おれのように世事に疎い人間だ、家電などまったく知識がない、そんな場合に、家電メーカー勢力図など大雑把な案内(東芝日立パナソニック・・・・だけじゃないのね)をしてくれると助かる場合、それは許そう。ときに感謝さえしよう。かれの説明がうまかったら、最初無愛想にしていて申し訳なかったと謝りさえしよう。おれは十分に寛容なのだ。
余計なのは、メーカー勢力図を知り、各社のラインナップ、商品の概要もだいたいわかり、あとは金額ということになり、それから何件も電気屋を巡って、そうして結局最初の店に戻ってきて、最初に説明をうけて感心したこれにしよう、もうおおむねこれを買おうと決めてしまっていてそのうえで、敢えてその商品の前で、本当にこれでよいだろうか、大丈夫だろうかと、自分にできる最大限の精神統一をして、自分自身に問い尋ねている。そのときになって横から、この商品はですね、とくる店員だ!
ビクッとするじゃないか、いま静かに精神統一している最中なのだ!腹が立つ!一挙に買う気をなくすのだ!
この店員、俺が気の弱いのを見抜いたか?いやいや、気をしっかり持たなければならない。考えろ、俺!この店員は無視だ、こいつに発注するのはごめんだ。でも、この店員は聞き流すとして、他の機種にするわけにもいかない、やっぱりこれがいい、結局この店員にこれにしますと言わねばならないのか!
それがさらに腹が立つ!
さっきの見事な説明をしてくれた店員をさがしだして、これを買いますと言いたい。きっと彼の業績になるだろう・・・・ならないのかな、あとから来たあいつがエラソーにしてたから、やつはチーフか、結局あいつの手柄になるのか・・・・さっきの店員さんは・・・・あぁべつのお客さんに説明している・・・・やっぱりこいつに発注しなければならないのか!
これが腹が立つ!
仕方がない、背に腹は代えられない、断腸の思いだ、会計だ。
するとこんどは会計の最中にどこかから別の誰かがやってきて、今日のお買い物が全額無料になる可能性がありますよ、なんてことを言うやつがいる。
オマエは悪魔の誘惑か!
お宅ではインターネットはどちらの会社をお使いですか、あぁ、それか、携帯契約の切り替えはしないしない、もうスマホやらなんやらのことでおれに余計なことを言ってくれるな、いっちばん安い契約で使っていてもうこれで十分なのだから!
そもそも俺はいま会計をしているのだ、カードの暗証番号を入力しているのだ、これには精神の統一が必要なのはわかりきっているだろう。そんなときになにか言ってくるな!
腹が立つ、携帯なら変えないよ!
「あなた、なんて言い方するの!」
これは女房だ。おれの口のきき方をとがめる、おれの女房、こいつにはずっと腹が立つ、ずっと立っている、腹が、だ!腹が立っているのだ、こいつに!
こ・い・つ・に・は・ら・が・た・っ・て・い・る・の・だ、と言っているのだ!
そもそもこいつと出会ったのは・・・・よそう・・・・あれはしかたなかったのだ、もうなんども思いだしたではないか、もうよそう、あんなことおもいだすのは・・・・しかたなかったのだ・・・・
・・・・
さぁ、腹の立つ一日だった、もう寝よう・・・・するとスマホが鳴った。電気屋のアプリだ。
ポイントがもらえるゲームがあります、だと・・・・
そもそも、このアプリをインストールしなければならなかったのは、電気屋で割引きの権利を得るためだった。ポイントカードがあるというのに、アプリじゃなきゃダメなんです、カードの情報をアプリと統合しますね、カードのポイントはゼロではないか。カードはお返ししますね、この店員、笑ってやがるだろう、おまえ腹の中で笑ってやがるだろう、べつにおれはポイントがほしくてポイントカードを携帯していたわけではない・・・・と言いたい・・・・ずっと財布にはいっていただけなのだ。ベタベタおれのスマホをさわるな、このやろう!
・・・・そうだ、このスマホあいつがさわったんじゃないか、おれは潔癖症なのだ、消毒しなきゃ、アルコールだ・・・・アルコールが・・・・ない、おい、女房、女房、アルコールがないぞ、コロナ以来使っているアルコールどうした、おい、おい、女房、女房・・・・ったく、ねむれなくなったではないか。
アプリのゲームか、なら、しておこうか・・・・
